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世界ロケット徒然 Flight 03
September 2 - 2007 - 柳川邦彦
「ロケットの歴史 1972~2007 - アポロから現在へ -」
アポロ計画の成功によって米ソの宇宙レースは決着し、宇宙開発は低迷期に入ります。ソ連は月計画を中止し、新型のソユーズ宇宙船やサリュートなどの宇宙ステーション計画を中心として行きます。米ソの緊張が緩和した時には、アポロとソユーズが軌道上でドッキングして両国の宇宙飛行士が握手したこともありました。その一方で、宇宙開発予算が大きく削減されていたアメリカは再利用式宇宙船スペースシャトルの開発に乗り出しました。それまでの使い捨て方式をやめ、より安価に衛星軌道へ物資や人を輸送するためです。これは、莫大な予算をつぎ込めた国威発揚の時代が終わり、経済性や実用性がより強く必要とされるようになったのです。アメリカはシャトルによる新時代をうたい、以後は商用も含めたすべての衛星をシャトルで打上げるとして、これまでの使い捨てロケットの生産を終了してしまいます。

"Launch view of the Columbia for the STS-1 mission" スペースシャトルの初打上げ
Image credit: NASA
しかし実際にスペースシャトルの運用を始めると、それは決して目論見通りには行きませんでした。予定していた打上げ回数には届かず、運用コストも本来の計画をはるかに上回ってしまいます。それでもNASAはシャトルを強引に使い続けましたが、1986年のチャレンジャー号の喪失によってその方針は変更を余儀なくされました。米政府はシャトルでは商用衛星を打上げないと決定し、一度生産を終了した使い捨てロケットの復帰と改良に追われることになります。

"The first Ariane launcher blasted into the sky" アリアン1の初打上げ
Image credit: ESA
このアメリカの混乱を最大限に活かしたのがヨーロッパでした。彼らはV-2の技術をあまり手に入れることができず、ロケット開発で米ソに大きく遅れを取っていました。しかし70年代終わりには、欧州各国が共同開発したアリアンロケットを引っさげて衛星市場に参入し、チャレンジャーの事故による空白をついて一気にそのシェアを拡大したのです。政治的な理由から欧州ほど成功はしませんでしたが、中国も同じように独自の長征ロケットを使って商業打上げを開始しました。これらの国々は現在、アメリカやロシアと並ぶロケット打上げ国となっています。
1989年、ソ連の崩壊とともに冷戦が終結しました。軍事の必要性は下がり、宇宙開発も偵察衛星やミサイルより通信衛星などの実用衛星、そして何よりも経済性が重視されるようになります。そしてロケットの運用も次第に政府から民間へと移行し始めるようになりました。
東西の垣根は、衛星打上げ市場においても消滅しました。結果、90年代から拡大を続けていた衛星市場ではアメリカ、欧州、ロシア、中国、ウクライナなどが激しい競合を繰り広げることになります。さらに旧東西間の交流も活発化しました。アメリカのアトラスは第一段にロシア製エンジンを使うようになり、インターナショナル・ローンチ・サービスやシー・ローンチなどのアメリカとロシアやウクライナの合同企業も設立されます。
同時に、ロケットそのものも経済性を目指すようになります。アメリカは低コスト化を最重視した新世代ロケット、アトラスVとデルタIVを開発し、ロシアやウクライナはこれまでのロケットに加えてロコットやドニエプル、ヴォルナなど不要となった弾道ミサイルを転用したロケットによって、小型から中型衛星の低価格打上げを始めました。まだ商業市場への参入は成功していませんが、日本のH-IIAもそれまでのH-IIの価格を引き下げることを目的として開発されたものです。

"DemoFlight2 - Falcon 1 Liftoff" スペースX社のファルコン1打上げ
Image credit: Space X
そして21世紀、宇宙開発は民間にもその範囲を広げています。初めて宇宙空間へ到達した民間機スペースシップ・ワンを筆頭に、宇宙旅行が大きなベンチャービジネスとして注目されるようになりました。スペースXやロケットプレイン・キスラーといった民間で衛星打上げロケットを開発している企業もあれば、ビゲロー・エアロスペースのように宇宙ステーションの開発を行っているところすらあります。
国家規模に目を向けるなら、中国が米ソに続いて三番目の有人飛行国となり、これまで宇宙開発において後進国であったインドも独自のロケットであるPSLVとGSLVで着実に歩を進めつつあります。そしてアメリカは、再び月をそして火星を目指してコンステレーション(星座)計画を立ち上げ、サターンとアポロの後継とも言うべきアレスとオリオンの開発を開始しました。とは言えこの計画は莫大な予算を必要とするため、今後のアメリカの政治的動向次第でどうなるかは未知数です。さらに、アメリカほどの具体性や実現性はまだないものの、欧州やロシア、中国も月への有人飛行計画を発表しています。
かつて冷戦の表と裏で発達してきたロケットは、現在では目立たないながらも日々の暮らしを支えるのに欠かせないものとなっています。通信衛星、気象衛星、GPSなど生活に密着した人工衛星は多く、天文学なども探査機や宇宙望遠鏡なしでは成り立ちません。
確かに、空港から毎日飛び立つスペースプレーンはまだ実現せず、誰でも行ける宇宙旅行はしばらく未来の話かも知れません。ですが誕生から60年以上たつ今も、ロケットは歩み続けることでしょう。
次回はアメリカの新世代ロケット、デルタIVについてお話しようと思います。
Written by 柳川邦彦
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