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サラリーマンが宇宙に行っちゃいます! vol.03
July 24 - 2007 - 稲波紀明
「宇宙旅行抽選会 その3」

Image credit: Virgin Galactic/クラブツーリズム/Noriaki Inami
宇宙旅行の抽選会が新宿のクラブツーリズムで開催された。会場に来ていない女性が当選した。
マスコミが当選者に取材をしたくても当選者は会場にいない。なのでマスコミは私に落選の気持ちを取材する。
「落選した今のお気持ちはどうですか。」「次点でおしかったですね。もうちょっとでした、残念です。」
抽選会は10社以上のマスコミが駆けつけた事もあって、当日のニュースでも報道された。インターネットでも話題になった。
落選した私は、最年少の宇宙旅行の応募者として小さく報道された。名前も出ていなかった。とりわけ特徴も無い落選したサラリーマンには、既にマスコミの興味はなくなっていた。
抽選前には応募者に対する熱狂した盛り上がりと膨張した今後の期待があったのと対照的に、抽選後は、宇宙旅行に行く権利が遠のいた落選者達が会場にいた。急速に私たち落選者はマスコミの興味から、取材のネタから遠のいた。
私は純粋に宇宙に行きたい、地球を見たい、そんな気持ちだけで申し込んだのが、いつのまにかマスコミが注目するようになり、宇宙旅行に当選した場合は周囲や日本の期待を担う事になる、その重圧の一端を抽選会で感じた。
それだけに落選した時には、なんだか急に虚しくなった。普段は考えられないんだが、落選した自分を肯定する感情すら芽生えていた。
「宇宙には行きたいが、何も今行く必要は無いんじゃないか。」
「あと数年もすれば、多くの商品と同じように、宇宙旅行のツアーも格安になる。きっと海外旅行ぐらいの金額で宇宙にいけるようになる。宇宙に行くのはそれからでもいいんじゃないか。安全性も増すだろうし。」
「とりえもない唯のサラリーマンが日本人初の宇宙旅行者になる、そんな事は所詮夢物語なんだ。たったの一人枠にみんな応募したんだから、そりゃあ私が落選して当然だ。」
落選する事はある程度予想していた。当選者枠が一人しかいないんだからね。宇宙旅行に申し込んだ時も落ちて当然、宇宙に行けなくて当然、そんな駄目で当然の気持ちで申し込んだ。
前例もないから宇宙旅行の当選者って言う事自体、実体もないし実感もわかない。でもどこかで全く根拠の無いけど行けるかも、っていう期待はあった。
人類は何千年も昔から宇宙に向けて飛び立とうとしてきたが、結局宇宙は真空で何も無い。暗黒で空虚に満ちているのではないか。私が追い求めるものなんて、所詮そこには無いんじゃないか。
生命は地球で生まれ進化を遂げてきた。その生まれた海に憧れる事はあっても、宇宙に行く価値は無い。その生まれた地球から出る必要もない。
いつ宇宙が始まって、どこまで宇宙が広がっているのかすら誰もわからない。宇宙は実態も無い。そこに行くこと自体が無意味なんじゃないか。
落選した事で、宇宙が空虚な世界に思えてきて、サラリーマンが空虚な空間に向かう意思と行為自体が無意味なものに思えてきた。
「落選して良かった。」抽選後、あまりに力が抜けたので、そんな事すら思ってしまった。
盛り上がった宇宙旅行の抽選会が終わり、私は名古屋に帰る。そして普段のサラリーマンとしての日常が始まる。
私は会社に行き、自分の仕事をこなす。今の仕事は面白いしやりがいもある。未知の出会いと発見に毎日遭遇する。自分を成長させる環境に恵まれ、充実感もある。今の仕事も十分面白い。それなりに充実している普段の日常に戻った。
それは宇宙旅行とは全く無縁のサラリーマン生活だ。もし宇宙に行けても恐らく何十年後になるんだろう。これで宇宙に行く事は当分無くなった。いや、恐らくもう二度と宇宙に行こうとしないかもしれない。
人類初の宇宙旅行、そんな夢見たいな話と一線を画し、宇宙旅行に申し込んだ事自体を忘れようとしながら、普段の日常生活に戻った。
でもやっぱり宇宙に行きたい、宇宙旅行の優先順位は2位だったから、ひょっとしたら行けるかも知れない。そんな憧憬を含んだ気持ちを押さえつけ、サラリーマン生活を送り始めた。
数日後、宇宙旅行自体を忘れサラリーマン生活を送っている私に、突然私の人生を変える運命の電話がかかってきたのだ。
(次回に続く)
■稲波紀明の宇宙旅立ち日記
http://blog.livedoor.jp/gogospace/
Written by 稲波紀明
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