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世界むるるん紀行 Vol.06

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■メコン川の奥地に幻の生物を見た!

「むるるん紀行」と言いつつ、ヤミ金やら歌舞伎町やら、違法コピーの泥臭い話が続き、食傷気味の皆さんにお詫びをこめて、今回こそは心温まる旅の記録。メコン川の珍魚(イルカは魚ではないそうだけど、固いことはさておき……)・イラワジイルカと出会う感動の旅。いよいよスタート!


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▲「これが川イルカだ!」


 イラワジイルカは世界でも珍しい絶滅寸前の淡水イルカ。カンボジアとラオスの国境周辺にごく少数が生息している。
 かつてはカンボジア国内だけで数千頭、首都・プノンペンの川にも沢山のイルカが泳いでいたそうである。ところが70年代から始まった内戦のさなか、食用にされたり、ダイナマイト漁で吹っ飛ばされたりした挙げ句、90年代には残りわずか数十頭に!
 その後、ラオス・ベトナム国境に近いクラチエという町の郊外に数十キロにわたる保護区が作られ、現在はその数を百頭近くまで増やしているが、パンダより数が少ないという危機的な状況は変わっていない。
 川イルカの町・クラチエはプノンペンから約350キロ。数年前まで半ば陸の孤島みたいだったところで、行くには乗り心地最悪のスピードボートでケツを痛めつつ、延々メコン川をさかのぼらなければならなかった。
 一応、国道もあるにはあったが、十年近く昔にバイクでクラチエを目指したとき見たものは、国道とは名ばかりの獣道。両脇に迫る薄暗いジャングルには地雷注意のドクロ立て札が連なり、岩陰からカーツ大佐が出てきても不思議ではない雰囲気だった。余談になるが、そのときはバイクがぶっ壊れ、途中で引き返している。


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▲「カーツ大佐(地獄の黙示録)」


 しかし、最近になって二車線の舗装道路が完成。道路完成にあわせ、イルカ保護のためなのか何なのかボート路線は廃止され、今では定期バスも走っているのだが、今回は暇を持てあました知人の車に便乗してのミニツアー。
 途中、大きな町やらゴム園を通過。進めば進むほど人家がまばらになり、森は深くなる。眠気が最高潮に達した頃(寝不足だった)、クラチエに到着。所用時間は約六時間。


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 市場近くの崩れかけたホテルに荷物を置いて、玄関に置かれたウサギと象のセメント像に敬礼、町を歩いた。
 カンボジアでは一応、県庁所在地に相当する町だが、栄えているのは中央市場を軸とした半径二百メートルほどの範囲。この小さな空間に、煤けたホテルや商店が集まっている。
 市場のすぐ横にはメコン川が流れているが、プノンペンで見る茶色い下水のような色とは違い、青く澄んだ色をして美しい。
 古びた建物が連なる道は静かで、通行人もまばら。私にとって大ショックだったのは、ハイエナのように観光客にまとわりつき、女やら麻薬の斡旋をしてくるバイクタクシーが、何度目の前を往復しても、声をかけるどころか視線すら向けてこないことだった。バイタクの親父連中に軒並みシカトされるなんて、ほとんど生まれて初めての経験。歌舞伎町のポン引き全員から無視されたような、新鮮な感動を覚える。いい町だ。










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▲「煤けてます」 ▲「静かすぎます」

田舎で困るのはメシだが、ここでは古き良き町に魅せられた世捨て人めいた白人が数名、バーやレストランを経営していて、ささやかな洋食が静かに提供されている。なので短期間の滞在なら食べるものにも困らない。


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▲「ささやかな洋食店」


 それどころか、市場の近くには小ぶりながらベトナム人経営の怪しげなマッサージ店まであり、好奇心旺盛な私はついつい中を覗いてしまうが、推定40歳オーバーの疲れ切ったおばさんが数名、立て膝ついてトランプ博打に興じている姿を目撃し、静かにその場を立ち去った──と、帰り道、立木に貼られた一枚のポスターを見て納得。


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▲「都会者に娘を売るのはやめよう!(意訳)」


 ポスターには、田舎道を疾走する車の中、両脇を悪徳人身売買ブローカー二人に囲まれ、涙ぐむ田舎少女の姿。──そうか、だからおばさんしか残ってないのか……。

 そろそろ川イルカに話を戻そう。


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▲「実験成功。撮影失敗」


 翌朝、ホテルのバルコニーにプノンペンから持ってきたシグマリオンと携帯電話を並べ、赤外線経由で死ぬ程遅いローカルのISPにど根性のダイヤルアップ接続。
 イライラしながらこのサイトのトップページを表示させつつの、ささやかなごますり接続実験に成功。すかさず記念写真を撮るも、逆光で肝心の画面が真っ暗、意気消沈。
 気をとりなおし、寝起きで機嫌の悪い知人とともに、町から数キロ離れた川イルカ保護センターへ向かった。

 ここはカンボジアで唯一、川イルカが集団生息する名所で、展望台に突っ立っているだけでも、水面から水しぶきとともに灰色がかったイルカの背中を見ることができる。
 体長およそ二メートルだそうだが、岸から眺めると約一センチほど。おまけに水面に顔をだしてから潜るまでの間隔が異常に短く、約1.5秒ほどで姿を消してしまう、数は沢山いるが、叩く前にいなくなるモグラ叩きの如く、まじまじ眺めることはほぼ不可能。
 他のギャラリーが「あっ!」と指さした方向にガッ!と目を向けても、すでにイルカは川の中。まじまじ観察するには予め次の出現ポイントを占い、ひたすらその地点に意識を集中。出て来るのを待ってると再び横から「ああっ!」とか声があがり、ついついそっちに目をやる間にまた見逃してキィィッ!……という感じで、正直気が狂いそうになるが、なんだかとても感動的だ!


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▲「のんびりしてそうで、目は血走ってます」


 保護センターの職員からチケットを買えば、元漁師の操る小舟でさらに川イルカと接近可能だ(イルカ保護で漁ができなくなったので、ここで働いているらしい)。
 小舟で川の中央あたりまで行き、静かに息を潜めていると、舟の周りで水しぶきが立ち、「ブシューッ」という独特の呼吸音とともに、イルカ達が例の如く1.5秒間だけチラチラ背中を見せてくれる。そのたびに「おお……」とか「ああ……」とか声が出てしまうのは、やっぱり感動してるからなんだろうなあ……。
 イルカは舟から15メートルほど離れた場所を泳いでいるが、それでも岸から眺めるのとは別世界の大迫力。常日頃、女のケツばかり気にしている同行の知人ですら、泣きそうな顔をして少年の心を取り戻していたのが印象的であった。私もたぶん彼と同じような表情を浮かべているのかと思うと、イルカを食べるなんて一生できそうもない。

 と──ここまで来て、肝心の川イルカの写真が一枚も無いのにお気づきの皆さん。そう、1.5秒で消えちまうものの撮影なんて、私の安物カメラでは不可能なのです。試しに、世界に存在すると言われる謎の生き物の写真を並べてみた。












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▲「ネッシー」 ▲「イエティ」 ▲「そして川イルカ(海外サイトからの転載)」

 そう。伝説の生き物を撮るのは難しいのである。実際、まともに(生きている)川イルカを写した写真はあまりない。あっても、執念深いカメラマンが何日も住み込んで撮ったりしたもの。撮影しずらいからこそ幻なのだ……と自分を納得させて、保護センターを後にした。

 翌日夕方、プノンペンに戻る。車のドアを空けた瞬間、死んだ魚の目をしたバイクタクシーの親父が近づいてきて「レディーレディー。ベリーチープ。ムフフフ」とダミ声でささやいた。やっぱり、この町は病んでいる。

Written by クーロン黒沢

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