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世界むるるん紀行 Vol.03

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「ルポ・少年改造職人をたずねて」 クーロン黒沢

 毎度毎度、総人口の0.7パーセントに向けた狭きテーマでお届けしている世界むるるん紀行。打ち切りの濃厚な気配がプノンペンまで漂ってきたところで、恒例の70・80年代ローカルネタを急遽とりやめ、今回はろくでもない最新情報をお伝えすることにしよう。

 プロフィールにも記した通り、私はカンボジアのプノンペンという場末の町で暮らしている。年間通して摂氏30度・湿度80パーセントオーバーという、梅毒や淋菌の繁殖に最も適した温暖な気候、町全体がほこりっぽく、治安の方も千葉の河川敷並みだ。

 そんなプノンペンに大切な友人がひとり遊びに来た。毎年欠かさず15000円分の年末ジャンボ宝くじを購入するという未来の大富豪・B君(仮名)である。

 B君は毎回、日本からXBOXやらゲームキューブ、果ては液晶プロジェクターまで担いできて、ホテルの自室を長期滞在者向けの対戦ゲームルームに提供するーーというかなり奇特な趣味を持っている。で、今回は薄型のプレステ2をスーツケースに忍ばせていた。

 数年前までゲームといえばせいぜい黄ばんだスーファミ。高級志向の金持ちでさえ中古のプレステ(初代)という不毛なカンボジア・ゲーム市場も、ここのところ景気が良くなったせいもあって、ぽかぽか程度に暖かくなっている。

 ショップではXBOXやらプレステ2が山積みで叩き売り状態。 ニンテンドーDS XBOX360もストックされている。

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(店の外観)


 "カンボジア=貧乏"というイメージが定着している昨今。しかしながらドサクサ紛れに財をなした権力者や成金は少なくなく、そうした連中の倅は20代にして護衛の兵隊付きの高級車を乗り回し、ちょっと気に入った女に新車のハマーをポンと買い与え、暇つぶしにコンテナ一杯のヘロインを密輸したりと(摘発され話題になった)、いちいちやることが豪快である。

 もちろん、このような特権階層はごく一握りで、中間層の平均月収は2万円弱といったところ。僅か100ドルで殺しを請け負う奴がいる国で、月収の1/4をはたいて買ったゲームがクソゲーでは殺人事件に発展しかねない。そのため(かどうかは知らないが)、ソフトは全てまがいもの(DSは除く)というのが実情である。

 ショップの棚にぎっしり並んだXBOXとプレステ2のソフトは全て中国・マレーシアの秘密工場から直輸入された海賊版で、1タイトル2ドルほど。

 PSPのソフトもご希望のタイトルを叫びつつ5ドル札1枚ぴらぴらさせれば、有無を言わせずその場でメモリースティックにコピー。ファームウェアの入れ替えもしてくれる。

 まさに無法地帯。著作権法が無いのか、単に面倒臭いのか、賄賂が効いているのか。取り締まりは今のところ皆無。そもそもオリジナルを売る店が存在しないのだから、客にオリジナルとコピーという概念があるのかさえ疑問である。

 かつて海賊版の聖地だった香港では摘発が激しくなり、もはやコピー商売は普通の人が手を出せないヤクザの資金源。顔色の悪い店員の腕には刺青。不良品を掴まされ仏頂面で交換に赴いても、売り子から三白眼でガンくれられた瞬間、愛想笑いのひとつもしながらUターン。胸ぐら掴まれなかっただけでも神に感謝しろ。みたいな感じだ。

 カタギの学生風店員が目立つバンコクの海賊ゲーム屋は、香港と比べやや牧歌的なムードが漂うが、勿論、こちらも度々司法の手が入った結果、店頭にあるのは汚らしい手垢だらけのクリアフォルダひとつ。

 商品を買うたび隠し場所から取り寄せるため、1本ソフトを選ぶたびに長々待たされ、渡されるのは色あせたカラーコピーのパッケージに、マジックでタイトルが殴り書きされた金色のDVD。貧乏臭いことこの上ない。

 それがプノンペンでは、明るい店内で官憲の目を気にすることなく、本物並みに色艶溢れる海賊版を選び放題……。

 流石にこんな場末までコピーを買いに来る外国人はごくごく限られているが、皆、帰り道に強盗と鉢合わせ、身ぐるみ剥がれて腹を撃たれるというリスクも恐れず、目を輝かせている。

 閑話休題。前置きが長くなったところで話を戻すと、そんなB君のプレステ2は、新品ホヤホヤのいわば処女。市内に溢れる悪辣な海賊版はプレイできないよう防御が施されている。

 当初はモラルを守り、B君が日本から持ってきたつまらないソフトを黙々とプレイしたものの、いい加減それも飽きてきた。だけども店のソフトは本体を改造しないと遊べない。いつしか退屈に負けた私は、それとなくB君に悪いことを勧めた。

「近頃じゃ、プノンペンでもプレステ2の改造ができるんだって」

「カンボジアで? ぶっ壊されるのがオチなんじゃないの?」

「大丈夫だよ。腕は確かだから(裏付けなし)」

 日本と違い、本体改造に伴う法的問題もなし。意を決した我々が向かったのは、プノンペン市内のとある電脳ビルもどき。

 このビルの四階には小さなゲームショップがぎっしりひしめき、映画からゲームからアプリまで、あらゆるニセモノを垂れ流している。ソフトだけではなく「ゲームキング」という、何かと似ているけどちょっと違う、まがいもののゲームマシンも発売中。

 適当にうろつき、視線の合った女にB君のプレステ2を手渡すと、彼女はどこかに電話をかけ、2分もしないうちに怯えたまなざしが特徴の挙動不審な少年が姿を現した。

 パッと見、中学生といった感じの小僧だが、彼こそがこの店の改造担当者だそうだ。

「こんなガキが改造するのか……」

「しいて言うなら天才中学生だね。普段から手作りラジオで英語の勉強とかしてそうな顔してるよ」


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(素早くばらしてゆく)


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(この椅子、どっから拾ってきたのか)

 小僧は妙に小さな椅子に腰をおろすや、中学生とは思えない貫禄で、B君のプレステをばかばかバラしていった。

 時折、どこを見てるのかいまいちよくわからない虚ろなまなざしで左右を伺い、熱したコテ先を整え、乗りすぎたハンダを無表情で叩き落としながら基盤をいじくり回す。

 プレステ2の改造はとっても難しい。繊細なコテさばきと強靱な精神力、人並みはずれた視力が必要とされる。コテ先が僅かでも狂えば本体はあの世行き。


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(少年はうつろな目をしていた)

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(ハンダに精神集中する職人)

 それにしても小僧の作業は端から見ていて心配になるほど速い。傍らに置いた配線図を横目でチラチラ見ながら、猛スピードでジャンパを飛ばしまくり。すげえ! とそのとき、どこからともなくカンボジア民謡と思われる妙な着メロが響いた。

 着メロにあわせ、小僧が何気なくケツのポケットから取り出した携帯電話は、PDAマニア垂涎の的。携帯するにはでかすぎる実売8万円のスマートフォン・XDAIIs! なぜ! どうして? 思わず条件反射で叫んでました。


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(いい電話使ってやがる……)

 この電話、去年、買うか買うまいか半月悩んだ挙げ句、金が惜しくて結局断念したもの。それをこんな小僧が……。参考までにプレステ2の改造代は40ドル。うち、小僧の取り分は推定5ドル。10万近い電話が買えるほど儲かるのか?

 まもなく改造と動作チェックが終わり、その日テキトーに買ったゲームはひととおり問題なく遊べたものの、夜中になってB君から怒りの電話が入った。もしもし?

「あのさ、ふつうのDVDが読めなくなっちゃったんだけど……」

「えっ?」

「ゲームはできるけど、映画が観られないんだよ!」

「そうなんだ……。ま、映画は映画館とかで観ればいいべえ」

「はあ?」

「ささいなことで悩むな!」

 と絶叫して電話を切った。

 その1週間後、問題のプレステ2を再び担いで帰国したB君からの力ない短文メールがこれ。

「家で電源入れたらゲームも読めなくなった。ぶっこわれた」

 ──はい、身から出たサビ。

 結論から言って中学生には荷が重かったようだ。所詮は世界最貧クオリティ。慣れないことはするものじゃありません。ちなみに本体の保証シールが剥がされたプレステ2は、ソニーに持ち込んでも一切の修理を拒否されます。

 と、オチがついたところで最後にひとこと。今回お伝えした内容は法もクソもないアジアの無法地帯だから許されることで、日本で同じことをするのは(たぶん)違法行為に他なりません。

 皆さんが法を守り、子供たちの良き手本になることを祈りつつ、僻地からさようなら。

Written by クーロン黒沢

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