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宇宙の前に蜜月旅行 Vol.03

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「TOTO JOJO YOKOMOTO」 矢田明美子


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つらいベトナムを乗り越え、ハネムーナーとして愛の結束力を高めるべく選んだのはフィリピンのブスアンガ島。たくさんの島からなるカラミアン諸島の中で一番大きな島で、戦争で撃沈した日本の船がごろごろあるのでダイビングのスポットとしては屈指の所だそうですが、戦艦マニアでもダイバーでもない私にはほぼ何の魅力もない島。ATMマシンが島に1台もない。島へのアクセスは10人ぐらいしか乗れない小型プロペラ機。島の飛行場はアスファルト整備されてない野原。周辺にはジュゴンが生息している。カシューナッツの生産地である。隣のクリオン島はハンセン病患者が住む島である。これらのバラバラな内容の情報を組み合わせて頭の中に入れてみると、「はあ、そうですか」ぐらいの感想しかでてこないような、だけど自然だけは素晴らしいであろう島。これぞ私の求めていた究極のハネムーンスポット! ハネムーンでは見るべき観光スポットなぞ無用! あるのは愛するアナタと私だけ。全力で愛のみに集中する。そう意気込んで乗り込んだのです。

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ま、だけどあれです。愛だけあってもあんまりおもしろくないんだな。最大の間違いは、ブスアンガ島にはビーチがなかった、ということ。その上、海の上に建てられたゲストハウスなんて素敵ね、って思ってたのも誤算で、その湾はたくさんの水上ハウスから流された汚水の塊でヘドロ色に輝き異臭を放つ有様。数軒しかないレストランはどこもひどく不味い。たいていのゲストハウスにはかなりの数の本があるのに、私が滞在したとこにはドイツ語の本が数冊あるのみで読書の道も断たれた。鼻血が出るまで食べようと思っていたカシューナッツは産地だというのにどこにも売ってない。ホテルの横は市場でいつも豚が人生最後の悲哀に満ちた叫び声をあげている。

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というわけでベトナム同様、相変わらず文句たれたれ。けれど頭と心をカラにする呪文を教えてもたったから、もう大丈夫なのです。「トウトーーー、ヨコモーートーー、ジョウジョー!」。ちょっと高めの声で抑揚をつけてのびやかに、山から響き返ってきたこだまみたいな感じで言うと効果が高い。ホテルが一緒で友達になったスウェーデン男子が教えてくれた。「ヨコモトってのは日本人か?」と聞くので、「日本人の名字っぽいね」と答えると、「俺の3歳になる息子が大好きなテレビ番組にTOTO, YOKOMOTO, JOJOという得体のしれないキャラがいるんだけど、うまく眠れないときに『トウトーーー、ヨコモーートーー、ジョウジョー』って頭の中で繰り返し繰り返し言ってるとどんどん頭のなかがカラになってすぐに眠れるんだ」。どこか気難しそうな人に見える彼なのだが、メソポタミア柄(遺跡の壁画みたいな柄)がヴィヴィッドな配色でプリントされたすごく変なセーラーバッグをいつも持ってたから、この人はかなり面白いやつなんじゃないかと思っていた私の勘は的中したことになる。なんと、聞けば子供は「ご近所さん」との間にできたのだという。彼は絶対にその相手を「ご近所さん」としか呼ばないのがすごい。愛情を抱いているわけではないので彼らは他人のままだけど、なんせご近所なので子供は彼の家と母親の家を行ったり来たりして暮らしてきたらしい。面白い。全然宇宙でない話ししてますが、すぐにパニクる私は「TOTO?」呪文はまた次の旅を楽しむための、またいつか宇宙に行ってパニクらないための心の支え。

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このサイトの原稿を書くときにいつも頭に浮かんでいた言葉があります。山本夏彦の『何用あって月世界へ』。たまたま空港で買った本がこれで、旅をしている最中にずっとこの言葉を考えてました、で、ついに、私は用もないのに旅をし続けることを、やめることにしました。というわけでハネムーン紀行はこれにて。


Written by 矢田明美子

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