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航速のドローイング?
July 19 - 2005 - 畠山美咲
『拘束のドローイング9』レポート

金沢を遠く離れて三千里(もないが)、東京での生活が始まってもどうも磯臭さが抜けない。特にあのエビセン。マシュー・バーニー新作『拘束のドローイング9』の身体感覚に直塗り重厚な変容への意思と皮膚のざわめくエロティシズム、それをポップにフェイクした繊細で豪奢なディテールの職人芸。
この展覧会は表題の映像作品と、その映像内で使用されたオブジェのインスタレーションの新作、そしてマシュー・バーニー自身本邦初の個展として今回は特に20年以上にわたって続くこの『拘束のドローイング』シリーズが金沢21世紀美術館の白い静かな個室でうごめいている。シリーズのコンセプトや歴史の詳細はほかに譲るとして、今回日本をテーマにして、またその日本を初公開の地として選んだ(のをネタに「マシューバーニー・プレミア鑑賞ツアー」を組んだ某社※1はちゃんと採算取れたのだろうか? 余計な心配か)『拘束のドローイング』とは何ものか。このシリーズに、通底しているものは文字通り拘束(Restraint)と、それによっておこる抗いという創造だ、平たく言うと。これまで比較的シンプルになされていたコンセプトの表現は、前作では半神半獣サテュロスに扮してのパフォーマンスで抗いという尋常ではないパワーから起こる形状や内面の変容、異形に至る過程のエロティックさへと進化し目を引いたが、今作ではその点が更に洗練され、美しくしかし異様に、グロテスクながらうっとりと身をゆだねてしまう我々自身の「体験」としてこの作品は待ち受けている。
日本の中でも特に瀬戸内海から九州にかけて、捕鯨船の上を中心にストーリーが進むとあれば、われわれ日本人でもそれほど身近なとは言えない状況設定。阿波踊りに海女さんたち、捕鯨船乗員たちと、船の中で行われる「お茶会」。獣皮の婚礼衣装を着たビョークと、天狗のような出で立ちの和装(角がある)をしたマシューによる「茶婚式」、海産物で作られた茶器でつつがなく行われる儀式のひとつひとつが非常に正確に理解されて置き換えられた精緻な日本文化のフェイクで、このファンタジーが防壁となり、日本人であれば忍び込ませかねない不気味な既視感や海外目線への「うがち」を追い払い作品へ没頭させていく。漂うように船内のあちらこちらで行われる生活や儀式を同じトーンで写し続けるレンズ。映像の中から強烈な臭気を観客に差し向けるワセリンの巨大オブジェ、鯨の排泄物、蝦の塗りたくられた棒、海、血、満ちてゆく液体。
クライマックスに向け、同じように漂い続けるレンズが二人に向け集中をはじめ、液体の下で行われる巨大な鯨刀でのお互いの身体への進入、切断、交換、その交歓。目をそむけかねないほどの強烈な交合と愛の歌、渾然一体の血とワセリンと海水と体液から、その変容の結果が姿を見せ始める。
捕鯨船の中、そして和装という拘束と愛への意思、拘束的でありながらその実、愛を加速させる作動の儀式的な作法、解けていく鯨の排泄物(りゅうぜんこう:貴重な媚薬)が波に揺られる捕鯨船から変容を遂げた二人を祝福するように大海へ送り出す。美しい、ここでまた海女さんがびっくりして、海中から集めてきた真珠の粒を吐き出してばら撒くのが物語を断ち切って、美しい笙の奏者の背中へとラストシーンを導いていくのが過剰な意味付けを回避して、アート性を高めているんじゃないか。
美術館内の展示は、これらのセットを一部再現(海産物の茶器が期間限定だったのが残念)してはいるが、決して「あの撮影で使われたキットの展示ですよー」と言ったものではなく、相互補完されるインスタレーション作品として完成している。というか、蝦の塗りたくられた棒が強烈に臭い、梅雨時期無事だっただろうか。やはり映像作品一本だと非常に個々の触感的感覚的なアプローチが強烈で個人の経験として何か飲み込まれ納得されてしまう、それはそれで良いが、この展示という場所で改めてマシューの横顔を見て、初めてそれが芸術作品であると納得されうる気もする。過去のDRシリーズも21世紀美術館の展示室の連続性を持って鑑賞していく中で、時系列を追い強化されていく彼の肉体のアート濃度を体感できるのではないか。

▲マシュー先生
美術館を出たら裏口からハゲのおっさんが手荷物を持って出てきて、目があったらマシューだったので、やあどこ行くのかというと「agnes.bと※2コラボTシャツ作ったら、サイン会が企画されてるんだ、その準備」とのこと。金沢の真ん中で昨夜までは嫁のビョークもそうだったらしいけど普通に紙袋もって金沢109に向かってとことこ歩いて行きました。作品じゃないけどやっぱりディテール見ていると豪華というか美しい(笑)男性でした、きれいな体できれいな目。元モデル、体育選手、医学生、そしてアーティスト。このようにして生まれるアート、そしてその生成の現場を目撃できる体験を持てる時代にいるわれわれは幸運だ。創造は常にエロティックであり破壊よりもパワフルである、そんな単純なことに勇気付けられるのが素晴らしいアート作品に出会いに出かける原動力だろう。いざ金沢へ。暑ければ兼六園で涼めるし、飛行機乗っちゃえば50分(羽田より)だ。金沢21世紀SANAA作品美術館がまだ建ってる(※3)この夏のうちにぜひ!

▲も一つ、マシュー先生

▲しつこく、マシュー先生
※1:http://www.knt.co.jp/branch/0282/MB/
※2:http://www.agnesb.co.jp/title.htm
※3:溶解するからね!創造的変容というか、この展覧会のためのような建築で素晴らしい!
Matthew Barney "Drawing Restraint 9" (2005)
Production Photograph.
2005 Matthew Barney.
Photo: Chris Winget.
Courtesy Gladstone Gallery, New York
2005 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa,
all right reserved
Written by 畠山美咲
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