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宇宙とポップミュージックの年代記 vol.06
February 15 - 2006 - 速水健朗
「ライブエイドとライブ・8、小さくなる世界」 速水健朗

1962年、初の商業通信用人工衛星『テルスター1号』が打ち上げられることで「宇宙中継」の時代がはじまった。軌道上に打ち上げた衛星を中継させ放送電波という情報を瞬時にやり取りできるようになり、世界は急速に小さくなっていった。
1967年にはビートルズの『愛こそはすべて』発表が話題になった史上初の全世界生中継番組『Our World』が放送され、ニクソン訪中の中継放送を見たパーカー大佐が立案した1973年のエルビス・プレスリーの全世界に中継されたチャリティー・コンサート『エルビス・アロハ・フロム・ハワイ』は15億人がテレビで目撃した。ロックミュージックは、世界中で愛されるようになった。急速に小さくなる世界の共通言語としての機能を果したのだ。
このような宇宙中継時代のひとつの頂点として開催されたロック・ミュージックの祭典が1985年7月13日の『ライブエイド』だ。
■ロックのグローバリゼーション化とバンドエイド
この前年にエチオピアの飢饉を救うためにゲルドフが呼びかけ、U2、ジョージ・マイケル、スティングらが集まったチャリティーのためのユニット、バンドエイドとして『ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス』をリリース。キリスト教のイベントであるクリスマスソングの収益でアジアの小国を援助するというポストコロニアル的な問題をはらみながらも、ここでできた輪が翌年のライブエイド開催につながった。
翌1985年に今度はアフリカの飢餓救済を訴え、英米を代表するアーティストがライブエイドの名のもとに集まった。イベントにはアメリカのアーティストたちも加わり、ロンドン・ウェンブリー・アリーナとフィラデルフィアJFKスタジアムと英米両国の会場で開催された。主な出演者だけを挙げていくだけで切りがないが、クィーン、エルビス・コステロ、シャーデー、ブライアン・アダムス、ティアーズ・フォー・フィアーズといった豪華な面々。お調子者のフィル・コリンズはイベント開催中にコンコルドで両会場を移動した。
このイベントの中継は地球上のテレビ受像機の98パーセントが受信可能という、大規模なものになった。グローバルな時代にふさわしい音楽イベントだ。しかもその目的はアフリカ救済。地球規模での助け合いという大規模なテーマ。しかもそれを、国家ではなく、一市民に過ぎないミュージシャンたちが自分たちの手で成し遂げたのだ。イベントはまったく問題なしとはいえないものの、成功と呼んでおかしくないものだった。
■音楽は世界を救えたのか
それから20年後。2005年7月にスコットランドで開催された先進国首脳会議(G8)の直前に 『ライヴ・8』が開催された。G8に集まる各国の首脳にアフリカの債務帳消しを提案する目的で、やはり20年前と同じくボブ・ゲルドフが提唱したのだ。このライブ・8には9カ国10カ所に計170組ものトップアーティストが集結する大イベントとなった。しかし、誰もこのイベントを宇宙中継などともてはやさなかった。今さらテレビの中継など当たり前。その変わりに、インターネットがでライブ・8の映像が世界中にあまねく配信された(検閲のある中国はその限りでないけど)。インターネットの場合、接続できる環境さえあれば、国境は関係ない。
ライブエイドからライブ・8までちょうど20年の月日が流れている。アフリカの貧困が抗うべき相手は20年前よりも今のほうがはっきりしている。敵はグローバリゼーションという名の21世紀的にアレンジされた帝国主義だ。グローバリゼーションの下では奴隷貿易のような19世紀的なわかりやすい野蛮な行為は行なわれない。自由貿易や市場原理という名の下で多国籍企業主導するフェアとは言い難い貿易が行なわれるだけだ。
■プラットフォームとしてのロックミュージック
ライブ・8に参加したミュージシャンたちは、決してこの新しい帝国主義に抗う勢力ではない。彼らの所属するレコード会社は全世界にビジネスを展開する多国籍企業だ。
ライブエイド、ライブ・8ともに出演していたU2のボーノは、2005年末、米『TIME』誌が発表したPerson of the Yearにビル・ゲイツ夫妻とともに選出された。Person of the Yearに選出されたロック・ミュージシャン第1号だ。彼らはアフリカの貧困問題を世界に訴える活動を行なってきた。反グローバリゼーションの旗手ともいわれている。
ビルゲイツの作ったOS、Windowsは、グローバル・スタンダードの概念を代表するアイテムのひとつだ。PCの共通プラットフォームとして世界に展開されている。ロック・ミュージックは世界共通の言語、これもまたプラットフォームだ。どちらもアメリカ発のグローバルスタンダードを代表する存在だ。
TIME誌の電子版が伝えたPerson of the Yearの選評はこうだ「いいことをすることに如才なく、正義を設計し直し、慈悲を格好良く、希望を戦略的にし、ほかの人たちを追従させた」。確かに当たっている。ただし、フェアを期すためには、これにひとことつけ加える必要がありそうだ。
「善につけ、悪しきにつけ」、と。
Written by 速水健朗
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