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Jobs & Co. --An Apple Story #5
November 30 - 2005 - 林 信行
ジョブズ・アンド・カンパニー/新生アップルの物語 vol.05

「11年ぶりの決着」 林信行

(アップルによるネクスト社買収を伝えるネクスト社のWebページ。
まるでアップルとネクストが五分五分で合併したかのような印象を与える)
■皮肉な運命
'96年、消滅の危機にあったアップル社。ギル・アメリオCEOは長い暗中模索の末、ジャン=ルイ・ガセー率いるBe社とスティーブ・ジョブズ率いるネクスト社に一騎打ちをさせる。そして、勝者、ネクストの買収を決断する。
スティーブ・ジョブズは、アップルによるネクストの買収からわずか2週間半後には、MACWORLD EXPO/SAN FRANCISCO '97基調講演に姿を現す。ここからジョブズのアップルでの第2章が始まる。しかし、話を先に進める前に、このまま終わらせるにはあまりに惜しいジャン=ルイ・ガセーとスティーブ・ジョブズの対決に、もう1度だけスポットライトを当てよう。そうすることで、アップルという会社の歴史物語にさらなる奥行きが見えてくるはずだ。
ガセーとジョブズは、アップル社次世代OSの座を競い合うずっと前から深い因縁があった。2人はどちらも一度はアップルに在籍し、Macの開発をリードし、そしてアップルを追われた立場にある。
しかも、そもそもガセーの才能を認め、アップル本社に呼び出したのはジョブズと当時のCEO、ジョン・スカリーの2人だった。
だが、運命とは皮肉で、ジョブズはこのガセーとスカリーの2人によって、自ら創業したアップル社を追われることになる。ちなみにCEOのスカリーは、ジョブズがその経営能力を評価して、強引に誘い入れた人物だ。つまり、ジョブズは自ら信頼して招き入れた2人に裏切られて、会社を追い出されていたのだ。

('96年、アップル社のギルバート・アメリオCEOはMacの次世代OSを探す中、
ジョブズと宿敵、ガセーに白羽の矢を立てた)
■似て非なる2人
アップル本社に来る前、ガセーは、アップルのフランス支社にいた。彼はそのやや強引なものの商売で成功し、フランスでのMacの売り上げを勢いづけていた。
強引な商売ぶりによる成功は、ガセーとジョブズの似たところでもある。若かりし日、ジョブズも、その強引さでアップルの未来を切り開いた。最初のパソコン、アップルIをつくっていた頃、ジョブズはよく相手が自分の要求を呑むまで離れない、という技を使った。
2人にはもう1つ似ているところがある。それは製品のディテールにまでこだわる性格だ。
しかし、性格まで同じというわけではなかった。ジョブズは、さんざん誉めていたはずの部下を人前で辱めることもあり、どんな部下とも常に距離を保っていた。これに対してガセーはどんな職階の低いエンジニアにも敬意を表し、おだて、親しくつきあっていた。
ジョブズがアップルを追われそうになった時、進んで近づいてくる人はほとんどいなかったが、ガセーが辞めさせられそうになった時は150人近くのエンジニアが「JLG 4 CEO」(JLGはJean--Louis Gasseeの頭文字)と書いたプラカードを掲げて抗議のデモを行った。
■クーデターの失敗
1985年頃、ジョブズ以外もガセーの才能を認め始める。ジョブズの親友、マイク・マレーも認めていた。この頃、マレーはひとりよがりで強引なジョブズのやり方ではMacのビジネスが危うくなると感じ始め、そのことをスカリーに告げる。
マレーはジョブズを、Mac本部長からはずし、ガセーを後釜に据えることを考えていた。
そう考えていたのはマレーだけではなかった。やがて取締役会からも同様の意見が出始める。当時のジョブズは「ガセーはコンピューターのことが何もわかっていない」と反論していたようだ。
しかし、悲しいかなこのニュースは次第に現実となっていった。1度は、当時、会長だったジョブズがその権力を利用して守りぬいてみせた。ある朝、マレーが会社にいくと、ガセーが自分のオフィスの外に立っている。ジョブズは、ガセーに自らが務めていたMacintosh本部長の座を渡さず、代わりにマレーの役職を奪って与えていたのだ。
しかし、それもつかの間、ついにガセーのMacintosh本部長就任が社内でも噂にのぼり始めると、ジョブズはクーデターを企てた。
ジョン・スカリーの中国出張中に、2人のエグゼキュティブ・バイスプレジデントが経営する新体制を引き、スカリーの居場所をなくしてしまおうという計画だった。
当時のジョブズは、なんだかんだいいながらもガセーのことを信頼していた。そして彼にこのクーデター計画について明かしてしまった。これがジョブズとガセーの関係に大きな亀裂を生むとも知らずに。
ガセーはその晩、スカリー寄りの重役、アル・アイゼンスタット自宅のバーベキューパーティでこの計画について話してしまう。アイゼンスタットはそのことをすぐにスカリーに報告し、翌朝、緊急の役員会議が招集された。
ジョブズも同席するこの会議で、スカリーは各役員に自分とジョブズのどちらを選ぶかを迫った。若くひとりよがりなジョブズは、競争に破れ、泣きながら会議室を後にする。そしてその後は、未来の製品の研究開発という閑職に甘んじることになる。完全なる敗北だった。
■ジョブズの次の一手
ジョブズはその後も、何度か自分がアップルの要職に戻れるように画策する。
その一方で、家に籠ったり、仕事で出向いたパリやスウェーデンで自分について考え直したりもした。民間宇宙飛行士ではないが、スペースシャトルに乗って宇宙に行くことも考えていたようだ。
また、大学などにもよく出向き教育機関でのコンピューターニーズについてもよく調べた。何度かの大学への訪問が、次第にジョブズの次の製品の構想につながっていく。
ジョブズは水面下でアップルの優秀なスタッフを集め、一緒に新事業を起こすように誘いをかける。
こうしてジョブズの次の一手を生み出す会社、米ネクスト・コンピューター社が誕生した。
アップル社との裁判や示談の末、初期メンバー以降、アップル社員を引き抜かないことや、アップルの主力市場に進出しないこと、そして製品出荷前にアップルにサンプルを送る約束が取り交わされた。
こうしてジョブズは大学機関や企業をターゲットにした高性能コンピューターと、他社より10年ほど先を行く先進的なOSをつくった。まさか、それが再びMacの未来になろうとは、当時は思いもよらなかったはずだ。今、振り返ると、まるで、ジョブズは、ネクストという離宮で10年にわたって、アップルの未来の製品の研究開発の仕事をつづけていたかのようにも見えてしまう。
ギル・アメリオCEOが、ネクストを選択した理由の1つが、アップルとネクストがお互いのビジネスを補完できる関係にあったことを挙げているが、これも決して偶然ではない。
ネクストは元々、アップルと競合を避けることが求められていた。このため両社の強みは美しいほどまでに相手の弱みを補完できる状態にあったのだ。

(激しい戦いの末、アップル次世代OSの座を勝ち取り、
アップル復帰を果たしたのはスティーブ・ジョブズだった)
■ガセーがなりたかったもの
ジョブズの後釜についたガセーは、5年ほど遅れてジョブズと同じ運命をたどる。一時は閑職を与えられ、自らアップルを去り、新しい会社を興すのだ。
ガセーはアップルでかわいがっていた何人かのエンジニアとBe社を創設する。「名前を何にするか迷って、辞書で『B』の項まで探したんだ。それで『Be』をそのまま社名にすることに決めたんだ」??そう語っていたガセーだが、このBe社で、ついに念願のCEOの座になった。モダンな基盤技術とオブジェクト指向の開発環境、Be社が目指していた世界はネクストと通じるものがあるが、ジョブズは自らがアーティストとなり、頭に思い描いた製品をエンジニア達につくらせていたのに対し、ガセーは相変わらず敬意を払うエンジニア達に好きにさせていた。
このためBe OSでは、仕様の大幅な変更も頻繁に行われたし、途中からどこへ収束するのかわからなくなってくる。
アップルの次世代OSの座を競っての一騎打ちでも、こうした両社のスタンスの違いが、そのまま評価されることになり、アメリオはネクストを選ぶことになった。
対決に敗れた後のガセーに、このことをどう思うか聞くと「あれはアップルにとってよかったと思う」と驚くほど塩らしい答えが返ってきた。「ジョブズはネクスト社では失敗したが、ピクサー社では成功した。失敗と成功の両方を経験したということが、ジョブズを大人に成長させたはずだ。彼はアップルにもいい影響を与えることだろう。」
同じインタビューでガセーはBe社は、まだまだやっていけるとも答えていたが、やがてBe社は存続の危機を迎え、ホームページのアドレスまでがオークションで売られてしまう。こうしてガセーはコンピューター市場の表舞台からも退任してしまう。
だが、BeがつくったOSは伝説に残り、今も世界中の人々から愛され続けている。開発の本丸であるBe社がなくなった後も、世界中に散らばるその意思を引き継いだ人達が、未だに独自解釈版Be OSの開発を続けている。

(ジョブズとの戦いに敗れた直後のガセーは、穏やかで、負け惜しみをいうような
こともなく、真摯にアップルの成功を祈っている様子だったが、直前より明らかに
覇気がなくなり、常にどこか遠くを見つめているようでもあった)
参考文献:
・『スティーブ・ジョブズ ? 偶像復活』
(ジェフリー・S・ヤング、ウィリアム・L・サイモン著、井口 耕二 訳、東洋経済新報社 ;
ISBN: 4492501479)
・『アップル 世界を変えた天才たちの20年』〈上巻〉〈下巻〉
(ジム カールトン著、山崎 理仁訳、早川書房 ;
ISBN: 4152081902 ; 上巻、ISBN: 4152081910 ; 下巻)
Written by 林 信行
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